鈴木みそ「限界集落(ギリギリ)温泉」感想。
日本の未来を象徴するかのようなひなびた温泉街を舞台にした、
地方再生の物語。 ネタバレありです
当ブログとしてはゲーム雑誌でルポを書いていたイメージの強い鈴木みそ氏が送る「次世代型 地方再生」の物語。
あらすじ
閉鎖寸前の旅館に取り残されたように暮らす山里父子。二人の元に訪れた謎の男 溝田。彼は一宿一飯の礼にと旅館再興のため一計を案ずる。
実は彼も旅館と同じように、社会に打ち捨てられ外れてしまった過去を持つ元ゲームクリエイター。東京から逃げ出して路上生活を送っていたのだ。
▲溝田の過去の栄光と挫折
他にも、自殺をほのめかす事で周囲の注目を集めたいネットアイドルや、彼女を追いかけてきた連載の無い漫画家やモデラーを称するオタクたちなど癖のある登場人物たちが旅館に訪れる。
▲病んでる女神 マイナーアイドル あゆ
不況にあえぎ社会からはじかれた彼らが逆転することはありえるのか?
まさに未来が見えないギリギリの状況から再生できるのか?
ストーリー
当初溝田は旅館を救うために、偶然訪れたネットアイドルあゆとそのファンをいかに長く滞在させるかを目標にしていたが、街中を巻き込んで「なんでも鑑定団」を模した生動画をWebで放送したり、田舎にありがちな地元の反発を、口先ひとつでうまく丸め込んでいく様が痛快だ。
また提示された戦略ではなく、顧客が参加して旅館を盛り上げる演出は、斬新さは無いが今どきの風潮をよく表していている。
作中のアイディアがそのまま現実で通用するものでは必ずしも無い。しかし、登場人物たちの“変えようとする情熱”は長引く不況や現状のままでは歪な社会に苦しんでいる方にとって勇気を与えてくれる熱量を持った作品だ。
山里館を手に入れようとしているヒール、川辺 伊豆雄(かわべ いずお)の差し金で、山里館にやってくる美女 中願時 有希(ちゅうがんじ ゆき)の狙いも気になる所だ。
既巻では締めくくりはまだ見えないが、彼らが 迎える結末はどうなるのか非常に興味深い。
4巻のイメージをタイトルに使用しているが、選挙に出るイベントがあるようです。
▲ページの流れは左から右です。 溝田を中心に売れる旅館のアイディアを出し合う。
テーマ
この物語は大きく分けて二つのテーマがある。それは山里館をはじめとした限界集落の地域興しの点と、今どきサブカルチャーに夢を託しそれが故に地位も収入も不安定な者たちが何に価値を見出していくのかという点。この二つが平行して描かれることがこの作品のポイントで、両輪が回ることで面白さが増している。
キャラクター
キャラクターの書き分けもしっかりしている。亡き妻の思い出でもある旅館を守りたいが、勇気と知恵の無い優柔不断な優男の
山里康成。反面しっかり者で考える子の息子・
龍之介。ペテンまがいの口八丁でまさに海千山千をいく
溝田。かまってちゃんで偏食家で歌が下手なコスプレイヤー
あゆ。など、キャラの立っている彼らが自由に動いて旅館についてそれぞれのアプローチで盛り上げていく。
3話まで無料で読めるので興味のある方は以下のリンクに
外部記事
萌えおこし オタクの嗅覚分析(産経ビジネス)
3話まで試し読み(マンガ全巻ドットコム)
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