花沢健吾「アイアムアヒーロー」7巻までの感想。 マンガ大賞2012 ノミネート作品
ネタバレアリです。
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あらすじ
漫画家のアシスタント 鈴木英雄は3年前に打ち切られた連載を再び得る為に奮闘している35歳。年下の出版社編集にダメ出しされながらもネームを描き続けている。徹子という恋人はいるものの、彼女の元カレ中田は売れっ子漫画家で常に引き合いに出され悔しい日々が続く。アシスタント先の人間関係もうまく行かない。収入の当ても無く合コンに出ても相手の女性に足元を見られているような敗北感。不安定な状況故にか夜には恐怖妄想にも襲われる。絵に描いたようなダメ人間で、大失敗の合コンの帰りに「俺はヒーローじゃなくていいんだ。せめて自分の人生の主役になりたいんだよ。」とつぶやく。
そんな悶々とした日常も、ある奇病の流行により突如終わりを告げる。従来の価値観を失い変容する社会の中で英雄はヒーローになれるのか?
感想
卒業アルバムの写真が見切れてたり、合コンで年収聞かれるとか、単純な貧富格差にとどまらない主人公の苦悩はマンガを読んでいる男性なら少なからず思い当たる所はあるんじゃないでしょうか。少なくとも私は痛い記憶が蘇るシーンが何箇所かありました。お前は俺か!
彼女へサイテー発言する35歳 後悔する35歳
この物語はゾンビものの破滅に向かっていくのですが、上記の英雄の日常部分がほぼ1巻分続くのです。プロローグが緻密に描かれることで世界が壊れていく事に対する登場人物のリアクションにリアリティが出ている。
アシスタント先のスタジオでゾンビ化した同僚達に対峙するシーンがあり、生き残っていた同僚三谷の発言が重い。4ページ後に死んじゃいますけどね。
非リアが望んだ終末が訪れて、はたして彼らにとっての幸せが訪れたのか。ヒーローになるというのはどういうことなのか。いまさら思い出す彼女の優しさが切ない。
危険な東京を離れた英雄は富士の樹海にたどり着く。そこで女子高生比呂美と出会う。比呂美もまた、いじめに会っていてつらい日々を送っていた。英雄とは対照的な性格でしっかりしている。
比呂美の登場する回は学校の回想が多く登場するが、比呂美をいじめている紗衣という同級生との関係が綴られる。二人の時だけは友達。男の私には理解しがたいゆがんだ友情は興味深い。
逃走の中で比呂美がついにゾンビ化してしまうのだが、他のゾンビとは違い人間を襲わない。彼女の存在がゾンビの原因を探す鍵になるような描写が見られる。「人形のように意思を失った女子高生を連れまわす35歳」という状況は作者が強い女性不審とかを抱えているんじゃないかと思わせる表現だ。カレシのいる比呂美とくっつくでもなく逃走する話、のほうが主人公の成長という面では良かったんじゃないでしょうか。
その後さらに逃走し、御殿場のショッピングモールにコミュニティーを作っているグループと合流するのだが、その描写がまるっきりドラゴンヘッドの自衛隊との合流と被っていて残念だ。社会が崩壊した後に独自のコミュニティーが出来るのは想像できるが、もっと斬新な方法は無いものか。
こんな感じ
まだ連載中の作品なのでどういう結末にするのか分からないが、現代の社会的弱者と終末ものの取り合わせは非常に面白く、英雄がどう解決していくのか、またZQNと呼ばれているゾンビ化症状の謎は解明されるのか社会はどう変化していくのか、この大きく広げた風呂敷を花沢健吾がいかに畳んでいくのかを見守っていきたい。
ところで5巻と7巻は比呂美が表紙なんですが、この描き方の違いは立ち位置の変化に伴っているのかな?
ぜんぜん違いますよね。
アイアムアヒーロー5巻 アイアムアヒーロー7巻
アイアムアヒーロー 8巻 アイアムアヒーロー9巻
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