あらすじ
謎の感染症に覆われた日本。主人公、鈴木英雄(ひでお)は変異した日常から逃亡する。
旅の途中でであった女子高生、比呂美(ひろみ)と共に富士山の麓まで逃げ延びる。
そこで出会ったコミュニティーに身を寄せることでひと安心かと思いきや、
その組織はリーダーの恐怖でまとめられたものだった。ショッピングモールの屋上は野蛮な人間、地上には危険な感染者が蠢く。
(ZQNは建物の屋上までを登るほどの知能や身体能力は無いようだ)
英雄たちの運命は?またZQNと呼ばれる謎の感染症の原因は?
8巻
第8巻に入り、ショッピングモールの探索のために地上に降りた英雄たちだったが、早々に瓦解する。
リーダーサンゴは死に、英雄は所持していたが今まで躊躇していた猟銃の発砲を決意する。
これまでの優柔不断で臆病な英雄からの変化が強く表現されている。
▲おぞましい異形に変異した人々。放って置けばまた人を襲い感染を広めてしまう。
▲怯えを捨て発砲する英雄。
▲リーダーの一人井浦もZQNの餌食になってしまう。
対立関係もあったとはいえ、グループの人間を助けられず、元人間を撃ってしまった呵責に英雄が苛まれる姿もあり、ストーリーとしては何も進展していないものの主人公の成長に焦点が当てられた回が続く。
ショッピングモールから脱出できたのは看護師のヤブ(小田つぐみ)と英雄、比呂美(ZQNに感染しつつも発症はしていない)だけだった。
ヤブは完全に症状が出ない比呂美がこの感染症を治療するヒントになると考えていて、病院に彼女を連れて行こうとする。
▲引き金を引いたことに悩む主人公英雄。
▲脱出までに一緒に戦ったブライ(村井)の形見が悲しい。
また、御殿場まで一緒だったカメラマンおじさんは少年の命を守るために、屋上に上がってしまったZQNを道連れにする。少年はこの先どうなってしまうのか。生き残ることを選択することも絶望にしか見えない。
うだつの上がらないダメ男が、発砲にいたるまでのお膳立てが行なわれ、今までの異変に恐れ逃げまわる姿から、立ち向かう姿勢に主人公が変化する物語の転換点になるような巻だ。
“守らなければ死んでしまうかもしれない女性”ヤブを英雄は守れるのか?
9巻冒頭は台湾編からスタートする。
1巻で英雄をこき下ろした編集者の取材旅行が描かれる。
漫画家志望の女性とちょっとした軽い火遊びの旅行だ。
▲観光を楽しむ二人。当然この後にはZQNの脅威が襲って来る。
▲ZQNに侵され混濁する意識の中、編集が残すメモは本心か、錯乱か。「スズキヒデオ マンガ 連載開始」
「分かりやすい悪役で描かれる編集者を無残な目にあわせる」という設定を漫画家と編集が作っているのは超越的でもあり興味深い。
作品として完成しているが、作者がちょっと恐ろしくも思う。
舞台は日本に戻り、比呂美の治療できる医院と生活に必要な材料を探すために当ても無く彷徨う主人公の描写。
▲感染者の脅威から逃がれることと、サバイバルに追われる事で、得られる充実感もあるのかもしれない。
水が手に入ったとき、英雄とヤブはハイタッチするのですが、1巻で漫画家のアシ仲間の三谷とハイタッチが合わなかったことと対比させている。ヤブとの逃避行がうまくいくことの暗示だったらいいな。
また8巻では主人公の心情の変化、強さや勇気を象徴する発砲だったが、躊躇せずに発砲する英雄に対してヤブは反対の意見を述べる。
▲なんかさ・・・この状況に慣れてきてない?あんた。
英雄が求めるべき”強さ”とは何だろうか。
新たに旅の仲間として登場したヤブとの関係で彼はどう成長していくのだろうか。
思考が停止したままの比呂美に意識が戻るときが来るのだろうか。
また、世界規模で発生しているような片鱗が見える感染症の謎は解けるのか。
この2巻であまり話しが進展しないためやや冗長な感は否めないが、多くの謎とへたれ主人公のとるべき道を残して引きのある終わりになっている。続巻に期待したい。
これが面白かったので前作のボーイズオンザランとルサンチマンも読んでいる。
これらもかなり作者独特の鬱屈した価値観が充満していて面白い。
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